大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和30年(ワ)3511号 判決

原告 山本勇

被告 三栄ベニヤ株式会社

主文

原告の請求はこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は被告が昭和三〇年八月二三日大阪地方裁判所昭和三〇年(ヨ)第一八一九号動産仮差押命令の決定正本に基き訴外浦正男に対する執行として別紙目録〈省略〉記載の物件に対しなしたる仮差押はこれを許さない。訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、その請求の原因として、

被告は昭和三〇年八月二三日大阪地方裁判所昭和三〇年(ヨ)第一八一九号動産仮差押命令の決定正本に基き訴外浦正男に対する執行として大阪市住吉区山之内町一丁目一四八四番地において別紙目録記載の物件に対し仮差押の執行をした。しかしながら右物件は原告の所有であるのでこれが執行に立会つていた原告より右物件が原告の所有物件であることを主張すると共にこれを立証する証書を示した。然るに被告は原告の右主張立証を無視してこれが仮差押を敢行したのである。原告は右訴外人に対する仮差押として被告よりこれが執行をうくべきいわれがないので、その排除を求めるため本訴請求に及んだと陳べ、被告の主張に対し、被告が昭和三〇年九月一二日右仮差押を解放したことは認めると陳べた。

被告訴訟代理人は主文第一、二項同旨の判決を求め、答弁として原告主張事実中被告が原告主張の日時その主張の債務名義に基ずきその主張の物件に対し仮差押の執行をしたことは認めるが、その余の点は否認する。

右仮差押物件は原告の所有物でなく訴外浦正男の所有物である。なお被告はその後昭和三〇年九月一二日本件仮差押の執行を解放したから、その一事を以て本訴請求は理由がないと陳べた。

理由

被告が別紙目録記載の物件に対し昭和三〇年八月二三日原告主張の仮差押決定正本に基き訴外浦正男に対する仮差押の執行をなしたこと、その後昭和三〇年九月一二日右仮差押が解放されたことはいずれも当事者間に争がない。原告は右目的物件は原告の所有であるから右仮差押は原告のために許さるべきでないと主張するに対し、被告はこれを否認し右目的物は訴外浦正男の所有で右執行は正当になされたものである旨主張抗争する。しかしながら本件のような執行の目的物に対する第三者の異議訴訟は、目的物に対する実体上の権利の確認を求めるものでも、過去の執行の違法なことの確認を認めるものでもなく、それは執行不許を宣言する判決により、現に存続する執行を違法とする執行法上の効果の形成を目的とするものであるから、既に執行が解放せられて現存せないこと明かな以上、右原告の実体上の権利の存否や過去の執行の違法性について審理判断するまでもなく、本訴請求は理由ないものといわねばならない(原告において再度の執行をうける可能性が存するならば所有権確認の訴に変更すべく、又既になされた執行によりうけた損害の賠償を請求せんとすれば、これが給付訴訟をおこすべきであるこというまでもない)。或は本件のように一たんなされた執行が第三者異議訴訟係属中に解放された場合でももし右執行が原告主張のように原告の所有物に対して被告が(過失により)これをなしたものであるならば、訴訟費用は被告の負担とすべきにより、訴訟費用の負担をいずれに命ずべきかを判断するために、本件係争物件に対する原告の所有権の存否の判断をなすべしとの論が考えられるが、民事訴訟法第九十条の適用ある場合は本案の審理過程において同条所定のような特別の事情の認められる場合であつて、本件のように未だ本案の審理過程においてかゝる事情の存否の判明しない場合には同条はその適用の余地なく従つてそれのみを判断するために特に証拠調をする必要はないものといわねばならない。よつて民事訴訟法第八九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 増田幸次郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例